失業者向けの救済策の一つ「バイターン」について、こんな論考がある。
http://www.edu-kana.com/kenkyu/nezasu/no48/kikou2.htm バイターンとは、アルバイト(非正規雇用)とインターン(職業経験)の中間的な就労支援プログラムのこと。
バイターンで、企業で就業経験を積ませる段階を「非戦力」、仕事のスキルを身につけられる見込みが出てきた段階を「半戦力」、既に仕事現場で働ける最低限度の経験とスキルを備えた段階を「戦力」とし、その3つの時期に分けて教育的勤務経験値を高めようというもの。
ただし、企業がニート受け入れる「半戦力」段階から給与を派生させる際に、給与の半分(※2万円相当を想定)は補助金で賄うことで企業の受け入れ負担を減らそううという点を観ると、この就労支援が持続可能な活動になりにくいことがわかる。
国や自治体、企業などからの補助金は、制度化されていようとも、年間予算内で成立するため、政治やスポンサー企業の懐具合でいくらでも事業仕分けされ、「来年度はもらえない」ということが起こりがちだからだ。
そもそも、「補助金がないならバイターンを受け入れるつもりはない」という企業がどれほど増えても、その企業に就労困難な属性の人を雇う際の困難を継続的に引き受ける覚悟があるかどうかは疑わしい。
1人あたり1ヶ月で2万円程度なら、「せどり」でも無理なく稼げる額面だ。
せどりとは、中古品をAmazonなどのネット上の中古ショップで転売して利益を得るビジネスだ。
書籍やCD、DVD、ゲームソフトなど、中古品はいくらでも家にあるだろうし、近隣住民や友達、ネット上から中古品を寄付してもらえば、いくらでも集まるし、TSUTAYAの100円均一コーナーから掘り出し物を見つけてネット上の中古品販売サイトやオークションで転売して利益を作っている人は珍しくない。
詳細は、拙著
『親より稼ぐネオニート』(扶桑社新書)でも読んでみてほしい。
一人でそういう作業ができないニートがいるなら、支援団体のほうがバリューブックスの
キフボンプロジェクトに参加しても調達できるだろうし、このキフボンプロジェクト自体を団体が支援しているニートたちと一緒にネット上で拡散し、バイターンが補助金を使わずにできる仕組みを企業に提案したほうが、企業側も安心してニートを受け入れるだろう。
なぜなら、受け入れる企業にとってもみれば、なんでも企業任せにするのではなく、なるだけ企業側の負担を減らすために支援団体自身がニートたちと一緒に金を作る自助努力のできるところだとわかれば、その支援団体の本気度が見えるからだ。
企業の経営者は、まず自分たちの稼ぎをみんなで稼ぎ、それでも足りない資金を銀行から借りたり、補助金を使ったりしている。
そういう企業にニートを受け入れてもらうには、NPOなどのニート支援団体で働くスタッフの側にも、支援活動の資金を稼ぎ出すビジネスを始める覚悟が問われる。
だから、いっそのこと、ニート支援のNPOなどは、「支援者」(スタッフ)と「被支援者」(ニート)という関係を超え、みんなでいっしょくたになって会社や収益の出せる仕事を作ってしまったほうがいい。
そうなってこそ、スタッフはニートと一蓮托生になる。
そこで初めてその両者は自分の仕事の重さを理解できるのではないかな?
ニートに対して「お前が企業に学びに行ってくれればいいんだよ」と送り出すだけで、仕事の労苦を共にシェアするというパートナーシップがなければ、ニートは「自分だけが孤独を強いられている」と感じるのではないか?
支援・被支援の関係では、支援される側は常にすまない気持ちを抱き続ける。
「共に汗をかく関係」にしか、対等で確かな絆は生まれにくいのだ。
ニート(無業者・失業者)になってしまう事情には、さまざまな社会環境の不備があり、一律にすべてのニートに就業経験ばかり強いても、雇用される保証はどこにもない。
それなら、いっそ支援団体が会社を作って直接雇用してしまったほうが早いじゃないか。
なぜ、それができない団体が多く、ニートの自立支援という成果を上げないままでいるのか?
支援するスタッフの側が、起業することを怖がっているからだ。
失敗すれば、自分たちのメシが食えなくなる恐れがあるからだ。
だから、サポステのような国策でNPOへ金が転がり込むことをアテにする。
補助金や助成金さえ入ってくれば、少なくとも1年間は自分たちの生活が保障され、しかも成果をまったく出さなくても自分の収入が確保できるからだ。
それでも、厚労省は性懲りもなく、成果を上げなかったニート対策(サポステ)をまたやろうとしてるんだけど、その策定にあたる「有識者」たちの会議録が、このページ。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002m7do.html この厚労省の会議録を読むと、ニート当事者の境遇よりも支援者側の論理が先走っているのがよくわかる。
支援を求める当事者のニーズに関する数字は、ほとんど出てこない。
その点だけ見ても、まったく実務的な会話になっていない。
この会議に一人でもニートがいたら、「この人たち、誰のことを話してるんだ?」とキョトンとするに違いない。
税金は使ってナンボで、費用対効果を厳しく評価されないという悪い見本がここにある。
もっとも、「有識者」とは所詮、専門知識はあるけど、問題を解決できるだけの知恵がない人たちのことだ。
だから、こういう人たちを集めて官僚主導で制度設計がされる習慣が変わらない以上、選挙でどの党が勝とうとも、政治による問題解決など進みようがないし、いつまでも政治に期待していても、らちがあかない。
だから、本当につらい境遇に立たされている人たちは、同じ境遇の仲間を集めて、民間でビジネスを始め、その収益をもって問題の解決に当たろうとする。
それが、ソーシャルビジネスの源泉である。
「社会的弱者」と呼ばれる境遇になったからこそ、そこに価値が生まれ、収益につながり、それによって社会を変えていける。
そんな目の覚めるような発見も、社会起業家たちの仕事の成果の一つだ。
たとえば、大阪には、「ミライロ」というバリア・フリーのコンサル事業を行う会社がある。
毎週土曜日の午後に東京・千駄ヶ谷で開講している
「社会起業家・養成ゼミ TOKYO」では、第6回のゲスト講師としてミライロ社長・垣内氏が駆けつけてくれた。
彼自身、車椅子の利用者だが、ミライロの社員には視覚障害者もいれば、知的障害者にも外注しているという。
彼ら、障がい者と呼ばれる人たちだからこそ「この段差じゃ車椅子で動けない」と企業に指摘することで、その企業からお金を受け取るコンサル事業が成立するのだ。
実際、ミライロは、ユニバール・スタジオ・ジャパンなどの遊戯施設にコンサルティングしている。
そのコンサルティングを受け、具体的な改善をユニバーサル・スタジオ・ジャパン側は行う。
すると、それまで遊びに来れなかった車椅子の利用者が遊びに来る。
ベビーカーを利用する子育て世代も、遊びに来れるようになる。
すると、彼らのスポンサーでもある高齢者たちも随伴してくる。
つまり、障がいになる段差などを指摘することで、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンは、3世代の集客を増やすことができ、収益がアップするのだ。
ミライロは「障がい者」だからこそアドバイスができるというメリットを持ち、「障がい者」がいてこそユニバーサル・スタジオ・ジャパンは顧客を増やせたのだ。
今後は、精神障碍者も、その当事者だからこそ「これは困る」と社会環境に対して指摘できるということが価値になり、収益になり、同時に社会を変える原動力になっていくだろう。
障がい者は、これまで「支援対象者」(被支援者)としてしか見られなかった。
しかし、実は、障がい者だからこそ気がつける現実があるのだ。
たとえば、車椅子の利用者なら、社会環境の中にある段差の高低差や傾斜角によって乗り越えられるものと乗り越えられないものがわかる。
それと同じように、対人恐怖症のような精神病を患った障がい者は、人の目が怖い電車やバスには乗れなくてもタクシーに乗れるようにするための条件がわかるだろう。
うつ病や睡眠障害、依存症などの他の精神病であっても、その病気でありながらも「できること」は、当事者自身が知っている。
うつ病であっても、トイレには自力で行ける。
睡眠障害でも、24時間ずっと眠り続けているわけではない。
そのように、「~できない」という現実だけでなく、「それでもできること」のあるある探しをしていくと、当事者にとって無理なくできる作業や環境、条件が具体的に見えてくるし、同時に彼らに何かを不可能にさせている社会の側の問題もはっきりしてくる。
社会がマジョリティ(多数派)である健常者を前提にした就労しか考えていないからこそ、「障がい者」や「社会的弱者」のレッテルを一方的に貼られてしまうマイノリティ(少数派)が生まれてしまうのだ。
当事者を障がい者として「のけ者」にしているのは、あくまでも「健常者」の都合なのだ。
それこそが、マジョリティ(多数派)が社会環境の中に作った障がい(バリア)なのである。
これは、支援するスタッフ側を主体とする従来の発想では出てこない解決の知恵であり、問題に苦しむ当事者を主体にした発想だ。
(※11月17日に「社会起業家・養成ゼミ TOKYO」で講義したミライロ社長・垣内氏) ソーシャルビジネスでは、このような画期的な視点や革新的な手法によって、それまで解決できなかった社会問題を解決し、社会的弱者自身がマイノリティ(少数派)であるがゆえに「強者」になれる方法を具体的に示してくれる。
障がい者や難病、中卒者、被虐待児、LGBT、一人親家庭などマイノリティ(少数派)であることは、その属性をもつゆえに誰もが幸せになれる道を示すことができる価値を手にしている。
彼らにとって快適な社会は、すべての人にとっても快適な社会になるのだから。
それは、バリアフリー新法のおかげで駅にエレベータやエスカレータが設けられたことによって、車椅子の利用者だけなく、健常者にとっても快適な環境が作られた事実ひとつとっても立証できることだ。
知的障害者の働く福祉作業所と組んで、美味しいスィーツを開発しているテミルという会社も、知的障害者それぞれが無理なく働けるように作業の流れの中に各自を上手に配置することで持続可能な働き方ができることを実証してみせると同時に、工賃アップを実現した。
障がい者を含むマイノリティの人たちは、「何もできない無力な人たち」ではないし、「社会的弱者として支援される一方の人」でもない。
彼ら(マイノリティ)の各自とできることを一緒に考え、共に汗をかき、一緒に金を稼ぎ出そうと考えればこそ、支援・被支援という分断をする必要がなくなり、支援者側を優先的に食わせる従来の支援モデルから脱却でき、社会問題は政治の力を借りなくても解決していけるのだ。
それこそがソーシャルビジネスであり、それを実現しているのが社会起業家である。
そして、実際に社会問題を解決している社会起業家自身から、問題解決の手法に至る考え方と実際の解決方法を学べるのが、
「社会起業家・養成ゼミ TOKYO」。
他の社会起業家の教育機関の多くは、社会起業家ではない人たちが「どうやって収益を上げるか」というビジネスライクな話に終始しがちで、画期的な手法による問題解決(=ソーシャル・イノベーション)や、問題に苦しんでいる当事者のニーズの掘り下げについては軽視されている。
だからこそ、僕は「社会起業家・養成ゼミ TOKYO」を立ち上げ、起業経験のない人でも、初心者でも、わかりやすくソーシャルビジネスの驚くべき着眼点について眼を開かせるチャンスを作り出した。
このゼミでは、寄付や助成金に依存した運営を改め、自ら収益事業を興して活動の持続可能性を作り出したいNPOのスタッフや、企業のCSR(社会的責任活動)の部署で働く会社員、大学のUSR関係者などはもちろん、これからソーシャルビジネスを手がけたい学生や、寄付では活動が持続可能にならないと悟った被災地支援活動団体のスタッフ、そして「営利優先企業ではない働き方がしたい」ふつうの市民の誰もにとっても有益な講義を行っている。
とくに、「年間予算内ではなかなか切実な問題に苦しむ市民を救えない」と考える意識の高いCSRスタッフにとっては有益だ。
助成金や寄付金、会員収入などに依存していたNPOが、その不確定な予算の範囲でしか活動できないことによって、問題解決の成果がなかなか上げられないと悩み、続々と「事業型NPO」として自ら収益事業を始めるようになっているように、CSRやUSRでも意識の高いスタッフは、予算を消化するのではなく、利益を生み出す投資に使うことによって、新たに生み出したお金を問題解決のための活動費に回せる仕組みを作ろうと考えているのだ。
そもそも、問題解決の精度が高い(=社会的価値の大きい)CSR活動ならば、そこに金がついてくるのは当然であるし、社会的責任投資といっても、CSR予算をただ支出するだけなら、不況下の中で持続可能なCSR活動にはなりにくい。
企業のCSRも、予算を消化するだけでは税金と同じように費用対効果が問われないものになってしまい、マルチステークホルダーに納得できるものとして根付けない。
それが理解できている経営者なら、CSRスタッフにソーシャルビジネスを学ばせるだろうし、ソーシャルビジネスのことを理解している教育機関なら、ソーシャルビジネスに成功している社会起業家を講師に迎えるはずだ。
理念的な話でメシが食えるのは、サラリーマンだけ。
経営の立場に立てば、節税対策にもなりゃしない支出を許すのは難しい。
だからこそ、問題解決の実務とは何なのかについて学ぶために、一度このゼミに足を運んでみてほしい。
きっと、目からウロコの体験をすることになるだろう。
東アジア初のアショカ・フェローになったShuR(シュアール)や、子育て世代の保険料を半値にしたライフネット生命の出口社長など、優秀かつ多彩な社会起業家が登壇する。
社会貢献が金に余裕のあるときだけのただのお題目になる前に、ソーシャルビジネスの最前線の問題解決手法を学んでほしい。
ソーシャルビジネスがただ社会的弱者のためではなく、実は自分も救うことにもなることに気づくはずだから。
★社会起業家・養成ゼミ TOKYOhttp://socialventure-youseizemi-tokyo.blogspot.jp/(※このゼミは毎回、予約先着で30名までしか受講できません。ご予約はお早めに!)
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