現在、日本でも多くの企業がCSR(企業の社会的責任)の活動内容を自社のホームページで公開している。
ところが、そのほとんどは面白みがない。
「コンプライアンス」「環境への取り組み」「社会貢献」など、代理店が作ったかのような横並びの言葉が並んでいる。
そうした表面的なつまらなさはもちろん、CSR活動の中身もその企業独自の戦略を感じさせるものが少ない。
もっとも、少しずつ改善されつつあるのは確かなのだが、それでも何かが決定的に足りていないと感じるのは、そうした企業市民活動が顧客の求める公共性から離れたところで発想されているからだろう。
フツーの市民感覚ではなく、「社外への貢献」というよそゆきの服を見せられているような印象なのだ。
だから、CSR経営といえば、社外へ自社のお金・労力・社員の時間などを提供するばかりで、「経済的かつ時間的な余裕のあるうちしかできない活動だ」という考えから抜け出せない。
本当に自社の社会的価値を上げるには、「予算を使い切ればいい」という発想ではなく、CSR予算を賄える仕組みを持つのと同時に、本業の業務として位置づけることだ。
それには、本業の中にある社会問題を発見し、解決することが望ましい。
たとえば、鉄道会社なら、ホームに車両と同時に開閉する自動扉を設置するのも確かに顧客に安全な乗降を約束するだろうけど、それと同じ発想で、女性に対する痴漢被害への対策を徹底させるなど、通勤・通学で毎日利用する客にとって快適な移動環境を作っていくことを、CSR部署から本業へ提案していけるだけの仕組みが必要だろう。
その際、CSR予算内で新たな課題解決に取り組もうとすれば、必ず「できない」「難しい」という壁に当たる。
そして、結果的に痴漢反対キャンペーンのような広報しかできないか、「やらない」になってしまう。
しかし、CSRの本質は、顧客を「市民」としてとらえ直すところにある。
これをわかりやすくいえば、お金を払う・払わないとは関係なく、誰にとっても快適な環境を作るということ。
自動扉を設置すれば、確かに安全を考慮していることがビジュアル的にアピールできるだろう。
しかし、痴漢被害に遭った女性の中には、人知れずトラウマになり、電車に乗れなくなってしまったり、登校拒否や通勤不能になってしまう人さえいるのだ。
電車は、社会環境そのものである。
痴漢被害もあれば、酔客の暴行もあるし、駅には複雑な路線に迷う外国人もいる。
つまり、駅・電車・その周辺という鉄道会社の職場には、あらかじめ社会問題が解決されずに横たわっている。
そうした問題に対して通常業務では立ち行かないところを、CSR部署が解決に取り組んでほしいというのが市民からのニーズだろう。
これは、鉄道会社に限らない。
どんな企業にも、その職場には社会問題が横たわっている。
オフィス内での内勤にしても、過労死や人間関係、子育てと仕事の両立、出産からの復帰など、そこで働く人たちにとっての社会問題が根強くある。
そうした社会問題を「社内問題」としてとらえてしまうと、社員の労働意欲はどんどん下がってしまい、それは企業全体の営業成績にはっきり現れる。
だから、自社内では解決できない社会問題として認知した企業では、経営者あるいは経営直轄のCSRが社会起業家と組んで、問題解決に動き出す。
その成果が一番はっきり現れたのは、ワーク・ライフ・バランスを導入した企業だろう。
定時で全社員の仕事を終わらせ、家に帰らせるワークフローへと改善させる。
これだけでも社員の生産性は上がり、労働意欲も上がり、子どもを生み育てられる時間も作れるので、仕事への責任感も上がる。
このように、社外の社会起業家と組むことは、自社内の問題を「社会問題」として認知し、解決する大きなチャンスになる。
大阪の社会起業家「ミライロ」は、バリアフリー・コンサル事業などを手がける会社だ。
社長自身、車椅子の利用者である。
毎日、車椅子に乗る当事者だからこそ、車椅子では移動できない障がい(バリア)に気づくことができる。
これから超高齢化社会になる日本では、車椅子の利用者はますます増える。
ミライロの社長は言う。
「障がい者と高齢者などを合わせると、約3000万人。日本人の4人に1人が車椅子の利用者になるかも。
そうなると、車椅子では行けない飲食店や娯楽施設は、機会損失してしまいます」
個人資産の多くを占める60代以上の高齢者の境遇に関心を払わないと、大きな機会損失なのだ。
これは、前述した痴漢被害などのサイレント・マジョリティと同様に、大きな社会問題である。
だから、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンや大阪大学など、関西の名だたる企業は続々とミライロにバリアフリー・コンサルを発注し、環境を改善している。
おかげで、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンは3世代家族の動員を増やすことに成功し、大学は受験者数を増やすことを期待できるようになった。
このように、社会起業家と一緒に社会問題を解決しようと思えば、自社の利益になる例は、いくらでもある。
社会起業家は、社会問題を解決するのが目的。
一般の企業は、社会に貢献するのが目標。
両者は似ているようで、やはり違う。
どっちが良い悪いではなく、存在意義が違うのだ。
一般企業は、自社の利益の最大化が最優先のミッションである。
社会起業は、社会問題の解決が最優先のミッションである。
ミッションが違っていても、相互補完しながら協働することで、それまで解決できないと思われていた社会問題が解決され、両者の利益になればいい。
だから、CSR担当スタッフは、横並びの社会貢献ではなく、毎日の仕事の中にある社会問題を発見し、それに対して自社の強みを活かすと同時に、本業の社会的価値と利益を上げられるパートナーとして社会起業家との協働を考えてみてほしい。
とくに小回りの利く中小企業やベンチャー企業にとっては、CSRを通じて社会起業家とつながることは、問題解決の成果を出しやすいし、マスメディアの話題にもなりやすい。
地方の小さな企業でも、大企業並みにメディアに取り上げられる大きなチャンスも作れるのだ。
社会起業家について少しでも知りたい方は、ぜひ下記リンクのゼミを受講してみてほしい。
全国から20名以上の社会起業家が講師として毎回1名登場し、直接指導する。
自社と違う分野の社会起業家であって、そこにある問題解決の手法は自社に利用できると理解できるはずだ。
東アジア初のアショカ・フェローになったShuR(シュアール)など、優秀かつ多彩な社会起業家が登壇する。
(もちろん、大阪のミライロも講師として登場する)
★社会起業家・養成ゼミ TOKYOhttp://socialventure-youseizemi-tokyo.blogspot.jp/
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