自殺問題における「解決」とは何だろう?
そう問いかけると、「それは自殺者数を減らすことに決まってる」と答える人もいるでしょう。
日本では、統計として現れているだけで、毎年3万人もの人が自殺で死んでいます。
この3万人が2万人に減れば、それは自殺問題に一歩前進と思いたいところです。
でも、たとえ1万人減っても、残りの2万人の中にあなたの大事な人が入っていたら?
結局は、目の前にいる人が自殺にまで追い込まれないようにするしかないのです。
自殺を思いつめる人と向き合えば、自殺問題の「解決」の姿に悩むシーンがたくさんあるのです。
たとえば、「生きずらさに絶えかねて苦しさしか感じられない人に、ただ「生きろ」と励まし続けることは、当事者の苦しみを温存するばかりではないのか?」という疑問。
生きずらさには、多くの問題が複合的にからんでいます。
「仕事が満足にできない」
「人と付き合うのが下手だ」
「家族間の問題から逃げられずにいる」
「心身に障がいを持っている」
…などなど。
1つの問題を解決しようとしても、べつの問題のつらさに耐えかねてしまうことは、よくあります。
だから、生きずらい当事者の話に、じっくり継続的に耳を傾け、必要な支援を提供したり、解決につながる情報を与えるなど、粘り強く付き合っていく覚悟が、支援者には必要とされます。
1990年前半から児童虐待の取材を始めた僕(
今一生)は、親から虐待を受けた方に自殺未遂や自傷行為の依存症に苦しんでいる人が多いことに気づき、15年以上、300名以上に及ぶ自殺未遂当事者と付き合ってきました。
通院先の精神科医の診察内容がどうもおかしく、なかなか病気が好転せず、自殺未遂を繰り返すようになっていた女性には、診察内容を客観的に把握できるよう、毎度こっそり録音することを勧め、これによってべつの病院に移ったところ、すっかり睡眠障害やうつ病が軽減され、希死念慮に悩むことがめっきり減りました。
また、両親がカルト宗教の熱心な信者で、家出せざるを得ず、高校に行けなかったある少年は、自力で高卒認定を取得し、自助努力を見せていたので、彼が希望するとおり、僕の事務所に1ヶ月滞在しながら自叙伝を書き、講談社から出版し、印税を元手に大学受験予備校に行くことができました。
他にも、自傷行為がやめられない青年には空手教室に通うことを教え、今ではすっかり有段者として人を教える側に立つまでになっています。
それでも、300名以上と知り合えば、3名は精神科医が大量に買わせた向精神薬のオーバードーズ依存症によって亡くなってしまいました。
こうした僕自身の自殺問題当事者との関わりについては、下記の本に詳しいです。
その時に死なずに済んだとしても、次にまた困難がやってこないとも限らないのが人生です。
すると、自殺対策には、2つの方向が想定できます。
一つは、対処療法的に当事者の問題を解決すると同時に、当事者との信頼関係を永続的に積み重ねていけるだけの仕組みを持った支援活動にする。
これには、当事者と支援活動団体との間に雇用関係やスポーツなどのチームメイトの関係、あるいは被支援者が支援者になるというような当事者性を活かせる関係など、さまざまな関係作りが必要になります。
そして、それを実際にするには、薬の過剰投与をしない医者や、非営利活動に理解のある弁護士、活動経費を調達するのが上手な人材、自殺の取材を重ねるフリーライターなど、さまざまなスキルを持ったプロの参加が必要不可欠となります。
なので、これは一朝一夕にはいきません。
実際、自殺まで追い詰められている人の話を聞くだけでも、聞く側の時間は奪われ、自営業者にとってそれは働く=収入を得る時間を奪われるのと同じですから、貧乏になってしまいます。
僕自身、朝といわず、深夜といわず、相談電話をかけてくる当事者たちの声にすべて無償で答えていたら、救急的にその人を救えたかもしれませんが、僕はすっかり資産ゼロになりました。
(※そのへんの事情は、拙著
『プライドワーク』をご参照ください)
もう一つは、当事者が自殺にまで追い詰められないように、問題がこじれる前に先手を打って解決できる仕組みを作ることです。
これを実際に実現しているのが、
社会起業家と呼ばれる人たちです。
普通の会社は、利益の最大化を最優先の目的にしています。
一方、社会起業家は、問題解決の精度の最大化を最優先します。
自殺にまで追い詰められる事情の多くは、その人だけの固有のものではなく、他のみんなも同じように困っている問題(=社会的課題)です。
社会的課題(社会問題)には、障がい者の賃金の問題、生活保護の受給からの自立の問題、難民の問題、低学歴による低収入の問題、ホームレスの問題など、さまざまな分野があります。
そして、それぞれの分野の社会的課題に苦しむ当事者に対して解決のために働き、解決活動にかかる費用を収益事業で賄おうと考えるのが、社会起業(ソーシャルビジネス)なのです。
前述したように、無償で話を聞くだけでも時間は奪われ、ボランティアでは継続的な解決活動になりません。
ボランティアは、時間や労力、お金を個人的に放出するばかりで、深刻な社会問題を解決するには、毎日、解決活動に従事できる仕組みが必要であり、それが社会起業(ソーシャルビジネス)なのです。
しかし、社会起業家は、政治や行政も解決できていない社会的課題に対してビジネスの手法で解決に挑戦しているのに、日本ではいまひとつメジャーな存在になっていません。
欧米はもちろん、世界中で社会起業家が活躍し、韓国でも2007年に
社会的企業育成法が施行しているのに、日本の新聞や雑誌は、いまだに政治や行政に文句を言うばかりで、社会的課題の解決の代案としてのソーシャルビジネスに関心が薄いのです。
こうした日本のメディア状況を嘆いていても、社会的課題に苦しみ、自殺にまで追い詰められる人の苦しみは終わりません。
いつ誰かが社会的弱者に転落し、自殺にまで追い詰められないとも限らないこの不透明な時代にあって、社会起業はみんなで互いを生かし合う希望であり、保険なのです。
だから、僕は2008年~2010年に全国27都道府県で
「社会起業支援サミット」を開催してきました。
これは、各県の地元の社会起業家10団体を集め、市民300人で彼らの話を聞くイベントです。
また、全国47都道府県別の
『社会起業家リンク集』も個人で作成しました。
しかも、2007年には東大で社会起業の無料ゼミを1年間行い、今年は10月から都内で
有料ゼミを開講します。
それだけでなく、社会起業家の仕事をより多くの人に知ってもらうために、雑誌連載を増やしたいと考えていますが、多くの編集部に企画を売り込んだり、遠方の社会起業家を取材するにも交通費や宿泊費、取材時の飲食費など、個人的に持ち出すお金が先にかかるのです。
みんなのために動いても、雑誌のギャラは安いですし、取材経費などほとんど出ません。
だからこそ、他の人がなかなか書かない社会起業家を取材し、記事として皆さんに発表する珍しいライターの僕を応援してもらえないでしょうか?
●下記のGrow!というサイトでは、毎月1050円(税込み)で僕の取材費を応援できます。https://growmonth.ly/conisshow/community●たった300円でできるMacのパソコンへのカンパhttp://kampa.me/t/jc なお、下記の今一生の執筆・編集の著作は、
メールで郵便番号・住所・氏名をお知らせいただければ、絶版していても僕から直接購入できます(※送料が別途かかります。希望者にはサイン入りで送ります。定価は税込み表示)。
★東日本大震災を生き延びた10代の体験記集
『子どもたちの3.11 東日本大震災を忘れない』(1575円)
★社会貢献ビジネスの仕事を描いた
『社会起業家に学べ』(781円)
★自分の子どもに親たちが書いた愛のあふれる手紙集
『パパとママからのラブレター 生まれてきてくれて、ありがとう』(1365円)
★親から虐待された方々が書いた手紙集
『日本一醜い親への手紙 厳選版100通』(1365円)
★向精神薬で死んでいった友人たちを描いた
『死ぬ自由という名の救い ネット心中と精神科医』(1743円)
★世の男性たちに少女たちが不満をびちまけた証言集
『少女たちからウザいオヤジへの手紙』(997円)
★宮台真司・田口ランディ・石川結貴の3氏と対談
『家族新生』(1575円)
★自分の働き方を見直すための7人の事例
『プライドワーク 自分をつくる働き方』(1890円)
★保証人不要の賃貸物件の住み心地を描いた
『ゲストハウスに住もう! TOKYO非定住生活』(1680円)
★親から経済的かつ合法的に自立する方法を描いた
『完全家出マニュアル』(1470円)
★「良い子」しか愛せない大人と正論を怖がる子どもへのメッセージ
『大人が子どもを壊すとき』(1575円)
★精神科医と患者の会話を録音し、公開したもの(僕は編集)
『あなたの診察、録音しました』(1260円)
※残部僅少。ご購入はお早めに。在庫切れの場合は、その旨をメールでお知らせします。
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